4. みみみエナ

ニコニコ動画合成音声ONGAKU投稿には、何をもってそう云うかは置いといて、ハイセンス・ハイクオルティ神曲が最も求められているように感じられる。有名Pなどではなくてもハイクオルティさが認められれば話題を呼び再生回数がものを言う。投稿した日に四桁を超えることもありえる。そういう作品は聴けば納得のPOPさが必ず確認できる。

しかし、ある意味スーパーハイセンス・ハイクオルティではあってもイマイチ再生回数の伸びない類の凄いPの数の方が多いのではないか。そこにはどんな差があるのか。

それなりのわかりやすいギミックの有無 かもしれない。わかりやすさというのは「よく知られた」「既知の」「従来のポップスの雛形に沿った」で、そこに完成度やプロっぽさやノリの良さやキャッチーさが兼ね備わった楽曲であることがヒットの条件なのかもしれない。

先鋭的にPOPな表現をすることこそにモチベーションを感じるタイプのPが、「よく知られた」「既知の」「従来のポップスの雛形に沿った」スタイルで曲を作らなければならなかったとしたらそのヤラシさ罪悪感を感じてしまうんじゃないだろうか。仕事となれば割り切ることもできるだろうけど。

みみみエナ - ミスった   2017/7/11

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みみみエナの曲はパソコンやスマホのしょぼいスピーカーで鳴らしてでさえもインパクトの強いボディーミュージックだ。

私はクラブで大音響でかけたこともあるし、かける前からわかってもいたことだが、みみみエナの曲はどれも音響的にも構造的にも極めてファンキーで、激踊れる最強の快感音楽だ。現在のクラブ系音楽シーンを見渡しても突出してて、日本を代表させたくなるほどの個性的なダンスミュージックである。

ディスコ四つ打ちブレイクビーツのような単純なビートでしか踊れないっていう人には”ナニコレ? 踊れないんだけど...”かもしれないが、ラテン音楽が好きな人なら体が動かざるおえない律動をビシビシ感じるでしょう。

しかし、みみみエナの曲は確信的にイメージやプラン通りに作られた音の彫刻ではきっとない。もっとラフに、日記のように、寝る前にひとゲーム、、ってなノリで、遊んでたら偶然こうなった、みたいなスポーティーかつ感覚的な作りであるような気がする。退屈さは皆無なのに、それほど構築したものではなさそうなところが恐るべしな才能。力量からすれば一筆書き程度の力しか使ってなさそうな。

実際作品には番号がふってあり、「報告その23」とかの表記で、マイリストのタイトルも「日記」となっている。正に"感覚が音になったような"(by tamaGOさん) 音楽と言える。

ボーカルは初音ミクが使用されていても、まあ、未満なコラージュ感ある散文リーディング的な声の使い方なので、合成音声ONGAKUというよりはインストに近いし、単に異色な(変態)エレクトロといった方が正しいのかもしれない。

 みみみエナ - 1センチ   2015/10/12

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みみみエナインパクトは沢山の種類の音楽を聴いている者ほど響くものがあるかもしれない。そうでない者には完全に想定外な音楽で、未知なノリを前にして唖然としちゃうかも? 大勢がボカロに求めるスタイルから大きく逸脱しているが故に自分とは関係のない音楽だ と なるのだろうか。

ボカロシーンにおいて"可愛い"は超重要項目。確信犯的ボカロマエストロきくお/anomimi/ムシぴ/ etc"可愛い"音を意識的にスタイリッシュに配置してリスナーの琴線を鳴らす。だが、みみみエナの曲には可愛いと認定できる記号的音色は全く使われない(認められるとすれば初音ミクの声だけ)。可愛い音が無いのに明るい。暗く無い。風通しもいい。プリミティブな勢いがある。よってアングラ感も感じない。軽率な者はアングラとカテゴライズするだろうけど。

みみみエナの曲へのコメントに"陽の当たるアンダーグラウンド"というコメントがあったが、それならわかる。というか、『"陽の当たるアンダーグラウンド"な音楽にはアングラというカテゴライズが似合わない』と主張したくてたまらない。

"この世にまだない曲を作るために作曲を始める"(by  u260さん)ボカロPの曲にも陽が当たってもらわなければ困る。

突き抜け感がある"陽の当たるアンダーグラウンド"な作品がニコニコ動画には沢山埋もれている。

 みみみエナ - てんとてん   2015/12/12

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 Puhyuneco についての回の時もAPHEX TWINを引き合いに出したが、APHEX TWINだってレーベルやレコード会社が違ってたら誰にも発見されず存在が埋もれたまま歴史に名を残さなかった可能性ってものすごく大きいと思うんです。APHEX TWINの人としての性格は極めて日本の"陽の当たるアンダーグラウンド"(もしくはイノセンスな)合成音声ONGAKUを作るオタク体質のアマチュアミュージシャンに類似してる気がします。ジャケットのアートワークでは自分の顔を悪趣味な見せ方で露出させているが単にそれは戦略的な理由(もしくはやんちゃなおふざけ)で、本人はとても内向きで放っておけば何年でもひたすら音の実験をしているであろう地味な人物像であることは今では皆が知っています。ライブには消極的で、やらざる追えない時だけ姿を隠してやる感じがもう、普通のスター志望のミュージシャンとは全く違います。たまたま彼は世界的にそのインパクトを認められる流れに乗れただけの話で、もしAPHEX TWINがまだ曲を発表してない世界線で今全く無名なP名で日本のニコニコ動画RICHARD D JAMES ALBUM(1996年の代表作)の曲を投稿したとしても、おそらくは800回以上の伸びは見せずアングラ曲とされ、知る人ぞ知るのみのポジションから飛躍できない可能性は高いでしょう。

 リチャード・D・ジェイムスがもし みみみエナ を知ったら絶対リフレックスAPHEX TWINリチャード・D・ジェイムスのプライヴェートレーベル)から全作アナログリリースしようとアクションをとるだろうと思う。そのくらい共通する純度を感じる。

 逆に言えば みみみエナPuhyunecoは、取り上げられる場所次第では一気にグローバルな存在になりえるポテンシャルを持ってる とわたしは見ています。

 

 

なぜ私がこんなにAPHEX TWINを引き合いに出すのかといえば、ボカロ系音楽全体のアーカイブが世界の電子音楽の系譜にしっかり連なっていて、重要な化学反応と進化の成果を見せているにも関わらず、現状閉ざされた箱に入ってしまっている という見方をしているからです。テクノとボカロ。これは切っても切れない関係性があると思います。